夏休みを控えたある日のこと。

「暑い……」

梅雨が明けたばかりの7月、サウナ状態の体育館で5時間目の授業が行われていた。

うちの高校は水泳の授業もあるけれど今日は高温のためプールが使用禁止らしい。

だからといって体育館もこんなに暑ければ使用禁止にしてくれと思う。

生理中だから余計に暑さと蒸れで気持ち悪い。

でも、今日の体育はバレーボールのチーム戦。

抜けるとも言いづらく、怠さを感じながらも参加した。


時間を押して体育の授業が終わると、次に体育館を使うクラスの生徒が入ってきてしまった。

入れ替わるように荷物を持って体育館の出口へ向かう。

友達に「顔色悪くない?」と言われて自分の体調の悪さを認識する。

着替えたら保健室行ったほうがいいかも、なんて思っていると、突然目の前がくらりと揺れた。

「……っ」

思わずその場にうずくまる。


心配する友達の声がどこか遠く「大丈夫」と言った自分の声もなんだか不安定だ。

一度、中学生の頃に貧血で倒れたことがあるけれどそれに似てる。


(やばいかも)

ぽたぽたと汗が床に落ちていく。


頭が回らない中、周りが騒がしいことだけはわかる。

心配をかけるから、恥ずかしいから、早く立ち上がろうと無理やり足に力を入れた。

その時、だ。


ザワザワと聞き取れない音の中で、たった一つの声を鼓膜が捉えた。


「はなび」


(りく、だ……)

ぽたぽたと汗を垂らしうずくまり、こんな誰にも見られたくない姿でも、幼なじみの声に縋りたくなった。

「はなび、抱っこするよ」

動けないことを察してくれたりくの言葉が優しくて、じわっと瞳に涙が滲む。

もし他の人に言われていても頷けなかっただろう。

声も出せずにこくりと顎を動かした私を、りくは優しく抱き上げた。


汗だくの背中も、床に落ちた汗も、友達に言葉を返せなかったことも、こんな状況なのに気になり始めるけれど、りくは「大丈夫」と言いながら私を運ぶ。

幼なじみの"大丈夫"の効果か、私はりくの腕のなかでウトウトと眠りに落ちてしまった。