課長のケーキは甘い包囲網


 春日課長になら聞いてもいいかもしれないと思ってあのときは勇気を出して聞いてみたんだ。

 結局、ふたりで飲みに行くという選択肢は課長の手前なかなかできず今に至る。

 春日課長は小さい声でキッチンを見ながら話し出した。

「あいつは製菓学校出身でパティシエだったんだ。だから、最初は商品開発課で菓子やケーキを作っていた。同期で同じ製菓学校出身の彼女とね」

「……え?」

 驚いた顔の私を見て、うなずいて笑顔を見せた。

「まあ、その子がね。なかなか優秀なパティシエでね。今も店で売れているケーキ類は彼女の考えた商品があるんだ」

「そうだったんですね」

「篠田開発課長は彼女に片想いしていて、一度告白してフラれているんだ。でもその後沢島と彼女が付き合いだして……色々あった」

「それで今でも仲が悪いんですか?」