課長のケーキは甘い包囲網


 すごい遠回しに本当のことを言えと言っている目が怖い。私は思わず下を向いて座っていた。

「本当のことだ。なあ、田崎」

「はい、課長。全くもってその通りです。私が課長に料理を教えて頂いておりまして、引越が遅れてご迷惑を掛けているだけです、春日課長。事実ですので、ご安心下さい。では、私は部屋に戻ります」

「ちょっと待った!」

「……はい」

「君が入れてくれたコーヒーを飲むから待っていて……」

「……ええ!?は、はい。わかりました……」

 春日課長は一口コーヒーを飲むと、ふうっと息を吐いて笑顔で私を見た。

「……うん、うまい!」

「ありがとうございます!」

 にっこりした私を見て、春日課長は笑った。

「沢島、料理を教えているって言ってたけど、さっき彼女のコーヒーの入れ方見てたけど、沢島のやり方だったよな」

 春日課長は沢島課長をちろりと見ながら言った。