課長のケーキは甘い包囲網


「何だ?おい、泣くなよ。元気づけたのにこれじゃ、怒って泣かせたみたいになってるぞ。俺が怖いという噂がさらに広がるじゃないか」

 気がつくと目が潤んでいた。つむった目から涙がひとつ落ちた。彼は手を伸ばして涙を拭いてくれた。

 すると、「課長ー!」と言いながら、桜井さんと伏見さんがこちらへ来た。

「課長、彼女を泣かせるほど叱るのやめてください。私この間言い過ぎてしまって反省してるんです。ごめんね、田崎さん。私だって新人の時は色々やらかしたのに、つい桜井さんと比べちゃって。本当に言い過ぎたの。ごめんね」

 伏見さんが涙を拭いた私を見ながら謝っている。それを見て桜井さんも身を乗り出して言った。

「そうですよ、課長が叱ったら怖いんですからだめでしょ。もう、泣いちゃうほど怖いんですよ。自覚して下さい。田崎さん、大丈夫。大丈夫だよ」

 そう言って、桜井さんは隣に来ると私の背中を撫でてくれた。

「そうですよお、課長は二年くらい前まで本当に怖かったんです。最近少し笑顔を見せてくれるようになったってみんなで言っていたのに、新人さん相手に復活させなくても……」