課長のケーキは甘い包囲網


 水を持った私をじろりと睨んでいる。ま、まずい。歩き出して、角を曲がったら低い声がした。

「……後で覚悟しろよ、すみれ」

「そ、そんな。川村君が相談あるっていうから……本当ですよ!さっきまで聞いてあげていたんです」

 目の前には机に寝ている川村君が座っていた。やっぱり飲み過ぎだ。

「川村君!起きて!」

「……うーん、あ、やっと帰ってきた。どこ行ってたんです、田崎さん。探しに行こうかと思いましたよ。って、この人誰です?」

 誠司さんを寝ぼけ眼で見つめる川村君、メガネをかけ直してじっと彼を見つめた。

「川村君だよな。人事の新人。最終面接に入っていた俺を忘れたか?君と入れ違いで人事課長を交代したんだ」

「……え?あ、そういえば面談の端の席にいた人ですね。どうも、お久しぶりです」