課長のケーキは甘い包囲網


 すると、誠司さんは背中を向けていたが、こちらを向いていた男性のほうが私の視線に気づいたのだろう、じっとこちらを見返した。

 すると、隣にいた女性が男性の様子を見て気づいたのか、同様に私を見た。

「知り合い?」

「いや、違うけど……こっちを見ていたから」

 私は急いで水を持って通り過ぎようとしたら、彼のつぶやき声がした。

「すみれ?」

 逃げるように背中を向けて歩いて行こうとしたら、少し大きな声で呼び止められた。

「おい、田崎。何、逃げてるんだ」

 急に上司の声になった。びっくりして立ち止まった。しょうがないから、そっと後ろを振り返った。誠司さんが睨んでる。手招きしている。逃げられない。