「そちらの店の出店をホテルの支配人である坂田さんのお父さんが望んでいるんじゃないですか?」
「実はそうらしい。日本料理の店がうまくいかなくて、地元で有名なうちを誘致したいと言われたんだ。縁談は最初なかったんだ。息子さんが支配人からうちを誘致したいという話を聞いて、それならすみれと縁談を条件にと言ってきたらしくて……」
「だとすると、縁談を断ったとしても出店はしないといけないんじゃないですか?」
「いや、それは何度か考えさせてくれと言って保留にしてあるんだ。跡継ぎである勝俊の考えもあるので、春以降アイツが戻ってきてから相談して返事をするということになっていたんだが……縁談を断ったらせめて出店はしてくれと言われて……」
「なるほど。あちらも親子での意思疎通が出来てませんね。まあ、こっちもそうですけど……」
「沢島君!君……」
「出店する気はないんですよね?」
「今のところはそこまで考えていなかったんだ。勝俊は別な方法でこの店を変えていきたいようだし……」
「どうでしょう?年に一度あちらで一時期だけ店を出すというのは?フェアみたいなものです。本店が忙しくない時期にやってみたらどうですか?」



