課長のケーキは甘い包囲網


 母さんが上機嫌で戻ってきた。木村さんがすでに帰ったのを見て顔が青ざめた。じろりと俺を睨んだ。

「誠司まさか、お前、追い返したんじゃないでしょうね?」

「そんなわけないだろ。キチンと説明してお断りしておいた。父さんにもメールしたから安心してくれ」

「ちょっとどういうことなのよ?なんで、お付き合いもせずお断り……」

「母さんこそ、俺へ何故事前に聞かない?俺にだってプライベートくらいある」

 母さんははっとしたように口元に手を当てた。

「まさか、そういう人がいるの?」

 俺はがっくりと肩を落とした。

「まさかって、どうしていないという前提なんだよ……」

「だ、だって。あの前のパティシエの同級生と別れてから様子が変だったし、立ち直っていないのかと思っていたから。ずうっと相手なんていなかったわよね……」