きっと、君に怒られるだろうけれど



そこにはすでにたくさんの筆跡の“桜”という字がずらりと並んでいて頭の中が疑問符でいっぱいになる。

なに、これ……?

朝から教室が騒がしかったのってこれが原因なのかな?


「ごめん、小芝さん。コイツ、なんか昨日見つけた物の持ち主を探してて朝からみんなに“桜”って字を書いてもらってんのよ」


すぐ近くから申し訳なさそうに言ってきたのは彼と仲のいい友達の濱田だ。

やっぱり朝から教室が騒がしかったのは彼のせいだったのだと心の中で納得をする。


「そうなんだ」


一体、何を見つけたんだろう。

確かに好奇心旺盛で真っ直ぐな心を持っている彼のことだから何か思うことがあってその人を探しているんだろうけれど。


「お願い!小芝さん!」


きゅるん、とした子犬のような瞳でお願いをされると断れない。

わたしは彼のこの顔にものすごく弱いと自覚がある。


「わかったからちょっと待ってよ」


まるでどこかのおとぎ話みたいだな、と頭の片隅で考えながらボールペンを手に取って“桜”という書き慣れた字を書く。