きっと、君に怒られるだろうけれど



事故の影響で一部記憶を無くしてしまっており、わたしのことはただのクラスメイトかそれ以下だと思われているのだ。


だから、わたしと彼はただのクラスメイトとして今ここで初めて会話するということになるわけで、決して動揺の色など彼に見せてはいけない。


『小芝さん』という慣れない名前で呼ばれて少しむずがゆい気持ちになっていることをバレないように心の奥にそっと隠した。


彼には今度こそ、可愛い女の子と幸せになってほしいから。


「えっと……何かな?」


彼が復学して一週間が経っているけれど、今まで話しかけてくれたことなんて一度もなかった。


彼の中でわたしという存在が消えたという事実を嫌でも突き付けられてしまって胸がえぐられるような思いになっていたのは秘密だ。


「ここに桜って書いてくれない?」

「え?」


突然の言葉に思わず驚きの声が洩れた。

そんなわたしの様子を気にも留めずに彼がウキウキと心を躍らせながら差し出してきたのは白い紙とボールペンだった。