『仕方ないなあ。特別だからな』
呆れながらもそう言うと、彼はカメラを操作して画面を見せてくれた。
そうして目に飛び込んできた写真にわたしは思わず、息を呑んだ。
『すごい……』
口からぽろりとこぼれ落ちたのはそんなごくありふれた感想だった。
だけど、語彙力を失くすほど本当にすごかったのだ。
先程、わたしが見た光景が彼の手によって美しく切り取られていた。
もうきっと同じ景色など二度と見ることができないはずの景色をこうして美しいまま、形にして残すことができるなんてまるで魔法みたいだ。
だけど感動したのと同時にわたしは本当に何も知らないまま生きていたんだと思い知った。
世界がこんなにも美しいことに気づかずに下ばかりを向いてすぐそばにあった小さな幸せを見過ごしていたのだ。
なんでかわからないけれど、泣いてしまいそうだ。
徐々に目頭が熱くなって、目の前に映っている画像がぼやけてくる。
そして、ぽろりと一粒の涙が彼のカメラの画面に落ちた。
『え!?』
『うぅ……っ』
突然、泣き出したわたしをみて焦ったように声を上げた三春くんの隣で、わたしは堰を切ったように溢れ出して止まらない涙を制服の袖でゴシゴシと必死に拭う。
家族を亡くしてから冷え切っていた心を溶かしていくような、やわらかく温かい感情がわたしの中に沸々と芽生えていくのを自覚する。



