凍えるような寒い冬が終わり、春が訪れ、わたし、小芝美桜は高校二年生になった。


春は四季の中でわたしが一番好きな季節だ。


気温も暖かくて過ごしやすいし、何よりも世界を飾る景色がとても美しく、目を奪われるほど綺麗に思えるから。


今だって、春独特の生温かい風がふわり、と吹いて校庭に咲き誇る桜のにおいを含んで彷徨い、見上げた視線の先で小さな薄紅色の花びらがひらりひらりと舞っている。


この桜を見ると今年も春が来たのだと実感できるからわたしは毎朝この桜の木を見上げるのをやめられない。


この儚く脆い美しい景色を存分に味わって、少しでも目に焼き付けておきたいから。


「おはよー」

「おはよ」


クラスメイトに挨拶を返しながら教室に入ると何やらいつもとは雰囲気が違い、やけに室内がざわついていて騒がしい。


何かあったのかな?


なんて、不思議に思いながらも特に深くは考えず、机の間をすり抜けて、後ろから二番目の窓際にある自分の席までたどり着くと、椅子を引いてそのまま腰を下ろした。