きっと、君に怒られるだろうけれど



わたしの返答を聞いて少しの沈黙の後、彼が「そっか」とぽつりと小さく呟いた。

俯いているため、櫂がどんな表情をしているのかわたしには見えない。

ただ、耳に届いた声はとても弱々しいものだった。


「ここ、テストに出るからなー」


数学の授業が始まってから数十分、やっと内容が頭に入ってきたような気がする。
櫂はあれ以降、黙り込んでしまって何も話しかけてこない。

授業中だから静かなのは当たり前だけど、今のわたしと櫂の間に流れる時間はどこかぎこちなく感じた。

何か気に障ることしちゃったかな……?

やっぱり、自分のことが書かれていると気づいちゃったとか?


わたしがどうしようもない自己嫌悪に陥っていると、隣にいる彼が小さな声で問いかけてきた。


「美桜の好きな人って……このクラスにいる?」

「え、あ、うん」


質問が突然すぎて思わず、口から言葉がこぼれ出ていた。

いや、ここは違うクラスなの!とか言っておくべきだったでしょ。

何やってんのよ、わたし。


「ふーん……そうなんだ」


そう言いながら、視線をわたしの前の席に座っている西神の背中へと向ける。