「あ、そうだ。俺のことも櫂って呼んで」
「え?」
「いや、俺だけ下の名前で呼んで、美桜だけ“三春くん”ってなんか距離あるくね?」
「まあ、それはそうだけど……」
「だから、これから三春くんは禁止な」
口の前で、指で×を作ると、悪戯っぽく微笑んだ。
そんな彼を見て、あー、本当にどうしようもなく好きだな、と心の中で独り言ちる。
「わかったよ、櫂」
そう言うと、彼は少し照れくさそうにはにかんだ。
「ありがとう、美桜」
また、君の名前を声に出せるということに舞い上がってしまいそうになる気持ちを必死に抑えて、わたしも彼に笑顔を返した。



