彼の隣でこうして笑い合えるのはわたしの特権だったのにそれを誰かに譲らなくてはいけないなんて。
心臓が握り潰されたみたいに痛むけれど、君の幸せの為にはそれが一番いいことだから我慢するしかない。
「なあ」
グラウンドからこちらへと視線を移して、曇りのない瞳がわたしを真っ直ぐに見つめる。
「ん?」
「美桜……って呼んでもいい?」
遠慮がちに呟かれた言葉が耳に届き、ただ名前を呼ばれただけなのにドッドッドッと鼓動が早鐘を打ち始める。
久しぶりに名前を呼ばれてこんなにドキドキしてしまっているなんて、この先が思いやられるよ。
「……いいよ」
どうせ、ダメだって言ったって何か理由をつけて意地でも呼んでくるんでしょ。
意外と櫂って頑固なところがあるし。
「まじ?やったね」
わたしの返事に、声を弾ませ、ずいぶんと嬉しそうに顔を綻ばせて喜んでいる。
そんなに喜ばれたらなんかわたしまで恥ずかしくなってくるじゃん。



