「小芝さんって話しやすいよね。なんか今日初めて話した気がしない」
そんな言葉にドキリと心臓が小さく跳ねた。
櫂にとっては初めてでも、わたしにとっては違う。
何度も、何度も会話を重ねてきた関係だから。
櫂はわたしを思い出すことなんてないってわかっているのに、そういうことを言われるたびに心のどこかでは思い出してくれるんじゃないか、とか記憶はなくても覚えてくれているんじゃないか、と淡い期待を嫌でも抱いてしまう。
もう一度、彼に近づいたらこういう思いをすることくらいわかっていたけれど、思っていた以上に苦しくて辛い。
「三春くんほどフレンドリーじゃないけどね」
「俺ってそんなふうに見えてんの」
「うん。誰にでも好かれるタイプ」
「ふーん、自分じゃわかんねえから。俺ってみんなからそう思われてんのかあ」
「そうだよ」
グラウンドを眺めているその横顔を見ていると「好き」だと口からこぼれ落ちそうになる。



