でも、俺たちが交わした約束がなかったことにならなくてよかった。
俺たちの大切な日々は確かに存在したのだ。
「────俺はこれからも忘れないよ。美桜」
桜の木にそう呟き、カメラを構えてシャッターを押した。
それに返事をするかのようにふわりと風が吹き、小さな花びらがひらひらと舞うように俺の手のひらに落ちてきた。
俺は脳内に愛おしい君を思い浮かべてその花びらにそっと自分の唇を重ねた。
きっと、これからも桜が舞う季節になるたびに俺は君を思い出すだろう。
どうしようもなく君に会いたくなって、想い焦がれるのだろう。
たとえ、他の誰かと恋に落ちたとしても俺はこの先もずっと君を忘れられないだろう。
他の誰かを抱きしめたなら、君の温もりをを思い出して一人泣く夜があるだろう。
だけど、俺はこの奇跡に感謝している。
今の俺に君と過ごした日々の記憶があることを美桜が知ったら、
どうして忘れてないの!って、きっと、君に怒られるだろうけれど
―――それでも俺は忘れたくなかった。
こんな俺のために自分の未来を捧げ、なおかつ自分の存在を忘れて、これからを生きてほしいと願った誰よりも優しい君という人をずっと、ずっと覚えていたかった。



