―――半年後。


美桜がいなくなって初めて俺たちが好きだった暖かい風吹く春が訪れた。


半年前の文化祭の日……小芝美桜は、死んだ。

あの日、教室を飛び出した美桜を追いかけたけれど、俺が次に見た彼女はもう息をしていなかったのだ。

俺は間に合わなかった。
何もできなかった。

できたことと言えば、ただ、忘れたくないと強く願うことしかできず、いるかもわからない神様とやらに記憶だけは奪わないでくれ、と必死で懇願することくらい。

俺から美桜を奪ったのに、その記憶まで奪われるなんて耐えられなかった。

そして、俺の祈りが通じたのかどうかわからないけれど俺は美桜が死んでからも彼女のことをはっきりと覚えていた。まさしく、奇跡が起こったのだ。

ただ、佑香は彼女のことは覚えておらず、彼女と西神の存在は完全にこの世から消え去っていた。

これも彼が言っていた契約に関係しているのだろう。

美桜がいなくなってしばらくは生きているのか死んでいるのか分からないようだったけれど、

美桜と夢を叶えると約束した手前、叶えられずに今世を終えてしまったら来世で合わせる顔がないな、と思い、何とか前を向いて生きている。


「えーっと、確か“図書室の2列目の棚の端”って言ってたな」


そう小さな声で独り言をいいながら図書室のゆっくりとドアを開けた。