悲痛に満ちた表情を浮かべている櫂の瞳からぽたりと透明な雫が乾いた床に虚しくこぼれ落ちた。
「……ごめんね」
そんな彼にわたしは謝ることしかできなかった。
こんなことをしてもわたしが彼に近づいた時点で彼が苦しむことは避けられないってわかっていた。
それでもわたしは君に幸せになってほしかったんだ。
それはお前のエゴだと言われても、何でもいい。
何を言われたって痛くもかゆくもない。
だって、君が明日も変わらずに生きて、この先も美しい世界をその目で見続けることができるのだから。
そして、わたしのことは綺麗さっぱり忘れて自分の人生を生きていけるのだ。
「謝んな。何かお前が生きられる道があるかもしれねえだろ!」
声を荒げて必死にわたしの手を握る彼の手は微かに震えていた。
わたしのことを想って彼の目からこぼれ落ちる涙さえも愛おしく思えてくるなんてわたしはかなり重症なくらい櫂のことが好きなんだなあ。
全部、全部、大好きでいいところも悪いところもまるごと愛していた。
ううん、愛している。
「ないよ。わたしは死ぬの。櫂との思い出は全部わたしが持っていくから櫂は安心してわたしのことを忘れてね」



