きっと、君に怒られるだろうけれど



それなのに……すべてなかったことになるなんて。


「運命は変えられないんだ。諦めろ」

「……俺は絶対に美桜を忘れない」


ぽつり、とこぼれ落ちた言葉。その声はまだ震えていた。
そんな俺を何も言わずにじっと見つめる死神。

頬を伝う涙を制服の裾でごしごしと拭い、小さく息を吸って俺はもう一度、口を開いた。


「忘れないよ。絶対」


絶対、絶対に。
契約だろうが何だろうが俺は君を忘れない。

定められた運命かなんだか知らないけど、運命なんてものは俺が変えてみせる。


「……そうか。もし、お前がその日を迎えてもなお小芝美桜のことを覚えていられたのならお前たちが好きだという春になってから図書室の2列目の棚の端を探せ。そこに小芝美桜がお前に遺したかったもの……彼女が生きた証を置いておく」

「なんで……なんでそこまでするんだよ」


美桜の命を奪うのは目の前にいる死神だというのにどうしてそこまで肩入れするんだろう。

俺の言葉を聞いて、死神は目に悲しい影を浮かべながらやるせなさそうに口許を緩めた。


「賭けだよ。俺は小芝美桜から奪うことしかできない。何かを与えてやることはできないんだ。だから、せめてアイツの想いくらいはお前に届けてやりたいと思ってな。お前が忘れてしまったらアイツの想いはもう誰にも届かない。永遠に見つかることはない。だから……どうか、どうか忘れないでやってくれ」


そう言った死神の言葉に嘘は一つも感じられない。