きっと、君に怒られるだろうけれど



信じられないはずなのに、何かの嘘だと言いたいのに、死神の言う通り俺たちが恋人だったと仮定すると自分の中で散らばっていた点と点が繋がっていくような気がしたのだ。


―――わたしね、映画館で流れる予告を観るも好きなんだ。
―――え、なんで?
―――スマホやテレビで観るのとでは当然聞こえ方も観え方も違う。それって映画館でしか味わえないから特別な気がしない?
―――まあ、俺は――と観る映画だったら何でも特別だけど。


初めて4人で映画を観たときに脳内で流れた会話も。

あの時、聞き取れなかった名前も。


―――うわー!どれにするか迷うなあ!ホイップドーナツもチョコクランチドーナツもいいなあ。アップルパイも捨てがたい……どうしよう。ねえ、櫂はどれにする?
―――俺は――が迷ってるアップルパイにしようかな。半分食べていいよ
―――え、いいの!?ありがとう!


甘い物が好きじゃない俺が無意識にアップルパイを選んでいたことも。


誰かの記憶でも、夢でもなくて、君と俺が過ごした紛れもない大切な日々の一部だったのだ。

身体に沁みついていた癖も、それほど君を大切にしていたという証。


事故から目覚めてから心にぽっかりと空いた穴の正体は、美桜だった。