『なあ、美桜。トランプやろうよ』
春休みが目の前に迫った放課後。
生徒がいなくなって二人きりになった教室でトランプが入っているケースを持ち上げながら櫂が言った。
『いいよ。今日も勝つけど大丈夫?』
『いや、今日は俺が勝つ!』
得意げに笑っているけれど、この男はババ抜きがめちゃくちゃ弱い。
理由は簡単。すべて顔に出てるからだ。
わたしがジョーカーを引きそうになると本人は気づいていないだろうけど口角が上がっていて、逆にジョーカー以外を引きそうになると唇を引き結んで困ったような表情をする。
だから、毎回わたしは勝っている。
たまに可哀想だから負けてあげたりしていたけれど最近はしていない。
『何連続負けてると思ってるの?この前で5連続だよ』
『言わなくていいって!つーか、俺がわざと負けてやってるんだよ!』
『はいはい。わかったよ。トランプシャッフルするから貸して』
櫂からトランプを受け取って、適当にトランプを切る。