「ヤバいくらい足が遅い……? ああ、どいつ? 紗季のこと、『ヤバい』って言ってたヤツって」

「トラックの近くにいた……背がめっちゃ高い人と、髪の毛の短い人」

「ああ、瀬田と戸倉か。わかった、アイツらにはあとでちゃんと言っとくから。…………紗季は俺のだから手ぇ出すなって」

「え? 最後なんて言ったの? よく聞こえなかったんだけど」

「あー……それ、聞こえなくていいヤツだから」


 あたしからふいっと顔をそむけると、うしろ頭をぽりぽりとかく和兄。


「とにかく、紗季は気にしなくて大丈夫だよ」

「でも、三年生は今年で最後でしょ? だから……絶対勝ちたいよね? 和兄も」


 和兄は、あたしの本当のお兄ちゃんじゃない。

 お隣に住む、あたしの二個上の高校三年生の男の子。

 お母さん同士が仲が良くて、小さい頃からよく一緒に遊んでた。

 あたしも和兄も一人っ子だったから、ホンモノの兄妹だったらよかったのにって、よく思ってた。