新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

高橋さんは、電話に出なかった。
サービスエリアと同じように、画面を見ただけで電話にも出ずにそのまま画面を見ていた。
「高橋さん?」
あまりにも真剣な表情で携帯画面を凝視していたので、堪らず声を掛けてしまった。
しかし、声を掛けると直ぐに何時もの悪戯っぽい笑顔に戻っていた。
「陽子ちゃぁん」
そう言いながら、高橋さんに顔を覗き込まれた。
「な、何ですか? 高橋さん」
「どっちにしても丸見えだから、一緒に入るぅ?」
うぅっ。
恐れていたことを、直球で言われてしまった。
「い、いいえ、結構です。 私は、大浴場に行きますから。 ハハッ……」
静かに後ずさりをしたが、その分だけ高橋さんが前に進んで来る。
「ひゃっ!」
「来いよ! 仲良く一緒に入ろうぜ」
「あっ。 ちょ、ちょっと、待って下……・」
「まぁてぇなぁいぃ」
高橋さんは慌てる私の手首を持って、露天風呂に通じるガラス張りのドアを開けると、そのまま目の前の脱衣所に置いてある椅子に私を座らせ、着ていたカーディガンのボタンに手を掛けた。
体が、硬直してしまう。
ど、どうしよう。
やっぱり、こんな明るいうちから露天風呂に入るのは気が引ける。
だって、自分の裸も見られるのも嫌だけど、高橋さんの裸も見えちゃうわけだし……夜ならまだしも……って、夜でも一緒に入るのは、やっぱり恥ずかしい。
高橋さんの裸を見ることにも慣れていないし、とても羞恥心を捨てることなんてまだ出来ない。
色々考えていたら1人で赤面していたらしく、カーディガンのボタンに手を掛けた高橋さんが、視線に合わせるように屈みながら私の顔を覗き込んだ。
「ハハッ……お前、本気で俺と一緒に入るとでも思ってるのか?」
「えっ?」
ち、違うの?
視線を合わせた高橋さんが、思いっきり笑っている。
「せっかく温泉に来たんだから、1人でゆっくり入りたいジャン」
「はぁ……」
思いっきり、溜息をついてしまった。
良かった。
まだ、心臓がバクバクいっている。
もう、脅かさないでよ。