新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

翌日の木曜日は、中原さんと明日のことも考えて早めに書類だけ先に処理出来るものから纏めておくことにして、高橋さんと約束したとおり、自分の出来る所は必死にこなして、なるべく中原さんの負担にならないように頑張ったつもりだった。
そして、待ちに待った金曜日。
「矢島さん。 悪いんだけど、この書類を大至急総務に持っていってくれる? 11時までの提出だった」
「あっ、はい。 急いで行ってきます」
中原さんから書類を受け取り、小走りでエレベーターホールに向うと、ちょうどエレベーターの扉が開いたので飛び乗ろうとして、黒い人影とぶつかりそうになった。
「わ、わっ!」
正確に言うと、ぶつかりそうになったのをその人が避けてくれたのだが……。
「す、すみません!」
「危ないな。 ちゃんと、前をよく見ろよ」
ハッ!
この声は……。
「高橋さん! ど、どうしたんですか?」
「どうしたんですかって、会社に来たんだが。何階に行くんだ?」
そうだった。
この書類、急がなきゃ。
「あの、総務に急ぎの書類を届けに行かない……」
すると、高橋さんが話の途中で総務の階のボタンを押して、そのまま閉を押しながら降りてしまった。
「あっ、ちょっ……」
タイミング悪く、エレベーターのドアが閉まってしまった。
あぁ、もう……何よ、高橋さん。
来るなら、来るって言ってよ。
もしかして、病院から直接来たの?
大丈夫なんだろうか?
そんな不安を抱きながら総務に急ぎの書類を届け終えて、まゆみの席を見たが電話中で忙しそうだったので、そのまま急いで事務所に戻った。
だって、高橋さんが居るんだもの。 
事務所に入り、会計の席に近づくにつれて中原さんの奥に座っている、高橋さんの姿が見えた。
高橋、此処に居ます! オーラが、今日は一段と出ているように感じてしまう。
やっぱり、こうでないと落ち着かない。
勝手に1人で頷きながら、席に戻った。
「じゃあ……まず、中原。 進捗状況から行こうか」
「はい」
中原さんが高橋さんの席に向かい、書類と一緒に説明を始めた。
それを聞きながら、私も仕事に取り掛かる。