新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

本当のことが、もし大変なことだったらと思うと、心臓が悲鳴をあげるぐらいドキドキしている。
「だから、違うって。 本当に検査だけだから」
「本当ですか?」
「ああ。 魔王に誓って」
左手の人差し指と中指で、高橋さんは自分の鼻を挟みながら言った。
魔王って……。
思わず笑ってしまいそうだったが、気を取り直してもう1つの疑問をぶつけた。
「じゃ、じゃあ、何で先週は仕事中も何だかボーッとしているような感じで、変だったんですか?」
「ハハッ……お前も、よく言うよな。 自分のことは、随分高い棚に上げちゃってさ」
「なっ……」
高橋さんが、吹き出しながら腕を組んだ。
「あれは、ちょっと考え事をしていただけだ。 だから、こうやって病院にまで仕事を持って来る羽目になった。 もし、病人だったらこんなことはさせて貰えないだろ?」
確かに、そうだけど……。
病人が病室で仕事をしたりしていたら、もし重病だったら絶対怒られるだろうし、見つからないようにしていても明良さんにはきっと分かっちゃうはず。 でも、さっき明良さんが来た時も、明良さんは何も言わなかったし……。
「じゃあ、本当なんですね?」
「しつこい」
「キャッ!」
高橋さんに、いきなりベッドに押し倒された。
「た、高橋さん。 びょ、病院。 病院です。 此処、病院ですから。 誰か来たら、どうするんですか」
何とか起き上がろうとしたが、やはりそこは力の差が歴然としていて、無駄な抵抗に終わる。
ヒャッ!
高橋さんの前髪が、おでこに触れた。
「フッ……何もしねーよ。 流石の俺も、此処じゃ時間が足りないって」
時間が足りないって……。
「な、何、言ってるんですか。 も、もう本当に、離して下さい」
高橋さんは、そんな焦っている私を見て、まるで楽しんでいるかのようだ。
「温泉でも、行くか?」
「えっ?」
突然、高橋さんがそんなことを言い出した。
温泉?
「1月の終わりの土、日か、2月の頭の土、日で温泉にでも行こう。 心配掛けたお詫びに、連れてってやるよ」
「うわぁ。 温泉なんて、嬉しい」
トン、トン。
エッ……。
病院のベッドに寝ていること等忘れてしまって嬉しくて手を叩いていると、高橋さんがその両手を持って私を起こした途端、スライドドアが開いた。
「高橋さん。 検温でーす」
「はい」
うっ。