高橋さんが、紺野さんに言ってくれたお陰で、そのことが川本さんや土屋さんにも伝わったのか、それからはあまり煩く言われないで済んでいた。
怒濤の月末処理の日々が過ぎ、御用納めも過ぎて年末の独特な雰囲気の中、実家に帰ってきていた。
普段は、殆ど用事がない限り実家に帰らないので、せめてお正月ぐらいは実家に居るという高橋さんに習って、年末年始は実家で過ごすことにした。
お正月といっても喪中ということもあって、お祝いごとの出来ない我が家は、新年の挨拶も年賀状もなく、おせち料理も今年はないので普段の休日と変わらなかった。
それでも、久しぶりに母と姉と3人でゆっくり過ごした実家での休日は、とてものんびり出来て日頃の疲れも取れた気がした。
お正月休みも終わって、仕事始めの日。
朝礼で、社長の念頭の挨拶の社内テレビを観ながら、また今年も頑張ろうと心に誓って仕事に取り掛かった。
久しぶりに会えた高橋さんも、年末年始は何処にも行かないで寝正月のまま、飲んだくれていたそうだ。
お正月気分も、ようやく抜けてきた1月も中旬に差し掛かる頃。
まだ仕事にも比較的余裕があり、今日もいつも通りに書類に目を通しながらパソコンを打っていると、1本の電話が鳴った。
「はい。 会計監査、矢島です」
「もしもし……あっ! 陽子ちゃん? 明良だけど」
それは、珍しく明良さんからの電話だった。
「明良さん。 どうしたんですか? 会社に直接お電話下さるなんて、珍しいですよね」
「あぁ……。 ちょっと、貴博に用があってね。 今、居る?」
「はい。 いらっしゃいます。 少々、お待ち下さい」
電話を保留にして、高橋さんを見た。