新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

2人が帰った後、食洗機に食器を入れたりグラスを洗って片付けたりしていたが、高橋さんも一緒に手伝ってくれたので、思った以上に早く片付けも終わった。
高橋さんがシャワーを浴びている間、テーブルの上を拭いていると、テーブルの上に置かれた仁さんからのプレゼントのオルゴールが目に入った。
今、動揺している場合じゃない。
闇の世界に飲み込まれまいと、手早くテーブルの上を拭き終えて急いでキッチンに戻った。
たとえ、その場から離れたとしても、一旦開いて光を当ててしまった暗闇の記憶の扉をまた直ぐに閉められるはずもないのに……。
「ふぅ……。 サッパリンコで、スッキリンコになっちゃったもんね」
はぁ?
高橋さんが、キッチンに入って来て冷蔵庫の扉を開けた。
何?
そのサッパリンコで、スッキリンコって。
高橋さん。
たまに、変なこと言うんだよね。
冷蔵庫の中から、ミネラルウォーターを出している高橋さんの後ろ姿を、少し呆れながら見ていた。
「ほら。 お前も早くシャワー浴びてきたら? サッパリンコで、スッキリンコになるぞぉ」
そう言って、高橋さんは一気にミネラルウぉーターを飲み干した。
「はい」
片付けも終わったので、バスルームに向かいながら思っていた。
だから、そのサッパリンコで、スッキリンコって何?
まあ、深い意味はない気がするけれど……。
シャワーを浴びて、高橋さんじゃないがスッキリして髪をドライヤーで乾かしてからリビングに向かうと、高橋さんはソファーに座っていた。
ああ……。
高橋さんの左手に、オルゴールがのっている。
ふと、後悔の思いが頭を過ぎった。
もしかしたら、さっき明良さん達と一緒に帰れば、まだ終電に間に合ったかもしれなかった。 
もう、遅いけれど……
オルゴールを左手にのせたまま、ソファーから立ち上がって高橋さんがこちらに近づいてくる。
何か、聞かれる?
それとも、言われる?
膝がガクガク震え出し、抑えようにも抑えられない。
高橋さんが、目の前で立ち止まった。