新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

仁さんは、黙ったままウォーターボールを必死に傾けている。
「これ、何気に燃えるね」
やっと、明良さんの問い掛けに仁さんが応えたが、恐らくトナカイの鼻に輪投げをしているのだろう。 輪投げの輪を5個全部入れるために、少しずつ角度を変えながら自分の首も一緒になって曲げている。
そんなに夢中になってくれている仁さんが、何だかとても可愛かった。
ウォーターボールを振る度に、雪に見立てた白い粉も舞うので結構見づらいらしく、なかなか上手く行かないようだ。
「仁。 プレゼントの交換のそのまた交換は、もう無効だよな?」
「今、それどころじゃないから。 勝手にお前等で決めろよ」
明良さんの問い掛けに、仁さんはおざなりな言い方で返事をした。
結局、高橋さんが文句を言いながらも折れて、そのまままな板3点セットが高橋さんのものになった。
明良さんは、してやったりだ。
自分の欲しかったまな板は高橋さんの家で使えるし、素敵なプレゼントも貰えて2度美味しい思いが出来たと大喜びしている傍で高橋さんが横目で睨んでいたが、ふと仁さんからのプレゼントに目がいったらしく、私の掌の上に乗っていたオルゴールを手に取った。
「何の曲か、聴いてみよう」
「はい」
高橋さんがゆっくり取っ手を回し始め、ワクワクしながら音が鳴り出すのを待った。
ゆっくりと、オルゴール独特のノスタルジックな音色のメロディーが聞こえてきた。
ハッ!  
この曲は……。
「へぇ……。 仁に、こんな趣味あったんだ」
高橋さんは、流石ピアノが弾けるだけあって、何の曲か直ぐに分かったようだった。
ああ……。
この曲……思い出してしまう。
高橋さんが取っ手を巻き続けているので、繰り返し聴いているうちに遠い昔の記憶が鮮明に蘇ってきてしまった。
出来れば、思い出したくなかった。
このまま聴いていたら、辛くて耳を塞いでしまうかもしれない。
せっかくプレゼントに選んでくれた仁さんに申し訳ないし、高橋さんや明良さんだってきっと変に思うはず。
楽しいはずのひとときを、台無しにしてしまう。
咄嗟に席を立って、トイレに向かった。