新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

「拒絶反応が出るとしたら、 それを目安に検査していくそうだ」
子供の事を心配していたんだ。
そういうところ、 やっぱり高橋さんなんだね。 その見えない優しさが、 私はたまらなく好きなんだ。
「お子さんが落ち着いたら……その時は、 また私……ウグッ……」
そこまで言い掛けた私の口を、 高橋さんが左手で押さえた。
「俺の我が儘だ。 分かってくれ」
高橋さんの左手に口を押さえられながらも、 首を横に振った。
「頼むから」
我が儘を言って、 高橋さんを困らせているだけなのかな?
でも……。
「あの日。 高橋さんは、 私に何を言い掛けたんですか?」
「あの日?」
高橋さんの手術の前日。 仁さんに送ってもらって、 病院に行った日。
あの日……。
「看護師さんが入って来てしまって……。 高橋さん。 私に何か言い掛けましたよね? 『 いつか 』 って。 そのあと、 何を言おうとしたんですか?」
「そうだったか? もう忘れたよ」
本当に?
本当に、 忘れてしまったの?
疑いの眼差しを高橋さんに向けてしまう。
「私……高橋さんを待っていてもいいですか?」
自分でも、 すんなり言えた事に驚いた。
きっと、 寝ながら話しているというのもあるのかもしれない。
いちばん、 高橋さんに伝えたかった事。
私にとっての最善の策。
ううん。
片想いだった頃のように、 また高橋さんの後ろ姿を追い掛ける。 それだけで幸せだから。 たとえその思いが成就しなかったとしても、 それで満足かと言えば嘘になるかもしれない。 それでも今は、 それだけでも許してもらえたら嬉しい。 こんなにも高橋さんが好きだから。 好きな人の事を待っているのは、 苦にはならないもの。
「俺の我が儘だ。 わかってくれ」
「私が……私が勝手に待っているのも駄目なんですか? どうして待っていちゃいけないんですか? 高橋さんに迷惑は掛けませんから」
「……」
何も応えてはくれないの?