新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

もう、 どんな瞳の高橋さんでも構わない。
「ミサさんに高橋さんのマンションで会ってしまった時、 その後、 何故私を追い掛けて来たんですか? その時もまだ……うっ……まだ決めてなかったって言うんですか? 何であんな事言ったんですか?」
しゃくり上げる声を聴かれないように、 毛布で声を押し殺した。
やっぱり話しの途中から、 涙が溢れて来てしまった。
あの時……。
高橋さんが私に言ってくれた事を思い出してしまったから。
『 お前を失いたくなかったから 』 って。
あの時、 どんなに嬉しい言葉だったか。
あれは、 上辺だけで言ったの?
それとも本心から?
エッ……。
仰向けに寝ていた高橋さんがいきなりこちらを向いて、 右手で肘枕をしながら私を見た。
「お前は信じないかもしれないが……ミサが家に来てお前を追い掛けて行った時も、 俺はまだそんな事は考えてもいなかった。 だが、 心の何処かで薄々そうなると気づいていたのかもしれないな」
「そんな……うっ……うっ……」
必死に涙を堪えようとすればするほど、 それは嗚咽となって溢れ出す。
エッ……。
高橋さんが左手の親指で、 静かに涙を拭ってくれた。
気づいていたんだ。  
私が泣いていること。
あの日。
病室で私の涙を拭ってくれようとした、 高橋さん。 
でも、 それはミサさんの出現によって叶わなかった。
この感触……ひんやりとした高橋さんの綺麗な指を暗闇で想像しながら、 何度も夢にまで見ていた私の涙を拭ってくれている事に、 今置かれた哀しい現状も忘れて思わず目を瞑って安堵しながらも、 涙がとめどもなく溢れていた。
でも束の間の大好きなその感触も、 高橋さんの声とともに離れていった。