新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

「何やってんだ。 お前が寝るのは、 そっちだろ?」
高橋さんが指差した先には、 ダブルベッドがあった。
「いいえ。 私はここで寝ますから、 高橋さんがベッドで休まれてください。 私の方が体が小さいですから、 その方が楽ですし」
ここは、 絶対に譲れないと思った。
だから剥ぎ取られたベッドカバーを離すまいと、 ギュッと握りしめた。
「せっかくベッドがあるのに、 何で寝ないんだ」
「高橋さんがベッドで寝てくれないんでしたら、 私も寝ませんから」
売り言葉に、 買い言葉。
キッと、 強く高橋さんを睨みながらベッドカバーを握りしめてソファーに座った。
すると、 何も言わずに高橋さんはパソコンの置いてある机の所まで腕を組みながら、 戻っていってしまった。
絶対、 譲れないんだから。
いいんだ。 
これでいいんだから。
チラッと高橋さんを見ると、 パソコン画面を見ながらキーボードを叩いている。
良かった。 
納得してくれたみたい。 
頑張って言った甲斐があった。
また先ほどのようにきちんとベッドカバーを掛けて布団のようにして、 もう1度寝直そうとしたその時だった。
エッ……。
突然、部屋の電気が消されてスタンドだけの明かりになり、 辺りは真っ暗になってしまった。
「キャッ!」
いきなり高橋さんが私をソファーから起こすと、 そのままベッドの毛布を剥ぐような音がして、 私をベッドに押し倒した。
「た、 高橋さん……」
あまりの事に、 驚いてその先の言葉が出てこない。
そして着ていたカーディガンを脱ぐと、 高橋さんが隣に横になった。
慌てて起き上がろうとしたが、 高橋さんの左手で右肩を押さえつけられてしまい身動きが取れない。
「は、 離して……」
やっと出た言葉だった。
一緒のベッドに寝るなんて。 
上司と部下だけの関係の今、 有り得ない事だった。 あり得ないというか、 頭が混乱してどう対処していいのかも分からない。 この状況をどうすればいいのか……。