新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

たかが 『 シャワー浴びてきたら 』 のひと言に、 こんな敏感に反応しているんだろう。 本当に1人で馬鹿みたい。 パニックになった頭の中で自問自答しながら、 慌ててクローゼットの中のバッグからお風呂セットの用意をして、 バスルームへと飛び込んだ。
シャワーを浴びながら、 色々な思いが交錯している。 ただ言える事は、 私の心臓は時間が経つにつれてどんどんアタックする速度が増して重症化していくようだった。
混乱した思いを抱えながらシャワーを浴びて部屋に戻ると、 高橋さんはパソコンを開いて仕事をしていた。 そんな高橋さんを気づかれないようにチラチラ時々見ながら、 これといってする事もなくテレビを観る雰囲気でも気分でもないし、 ただ黙って部屋の窓から暗い夜空を見上げたり、 下を歩く道行く人の雪を踏んだ足跡を数えたりして時間を持て余していた。
「お前、 先に寝ていいぞ」
エッ……。
不意に後ろの方から声を掛けられて振り返ると、 高橋さんがパソコン画面から視線をこちらに向けていた。
「また明日も何時に飛行機が飛ぶかも分からないから、 今のうちに寝とけ。 俺は、 もう少しこれを片付けてから寝るから」
高橋さん……。
そう言うと、 また高橋さんはパソコンの画面へと視線を戻した。
やる事もないし、 高橋さんの仕事の邪魔をしても申し訳ないと思い、 言われた通り先に寝ることにした。
「はい。 それじゃ、 お言葉に甘えてそうさせて頂きますね。 おやすみなさい」
そして、 ダブルベッドに掛かっているベッドカバーを静かに外して2つ折りにして、 それをソファーまで持ってきて掛け布団代わりにして横になった。
これで完璧だ。 
部屋の中は暖かいし、 風邪ひく心配もなさそうだし……。 なかなか快適かもしれないと、 我ながら名案だったと悦に浸っていた。
うわっ。
だが、 名案だったその掛け布団代わりに掛けていたベッドカバーを、 いきなり高橋さんに剥ぎ取られてしまった。