新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

部屋が一緒なだけでなく、 ダブルだなんて。
高橋さんと一緒に寝る……の?
フロントでカードキーを受け取った高橋さんを見て、 荷物を持って後退りした。
「高橋さん。 私、 空港のロビーに泊まります。 あそこなら安全ですし、 明日には飛行機も飛ぶかもしれませんから。 そうしたら、 直ぐにお知らせしますね。 それじゃ、 失礼します」
高橋さんにそう告げて、 車寄せに泊まっていたタクシーに合図をしてドアを開けてもらった。
「すみません。 空港……わわっ……」
そこまで言いかけたところで、 持っていた荷物ごと物凄い勢いで引っ張られた。
「すみません。 乗らないので、 ドアを閉めて下さい。 本当に申し訳ありません」
「高橋さん!」
「勝手に決めるな。 今行ったところで、 乗れない人でごった返している。 そんな所には、 危なくて行かせられない。 黙って俺の言うことを聞け!」
「高橋さん……」
その気迫に圧倒されて反論する事もできず、 従うしかなかった。
高橋さんと一緒に部屋へと向かう間、 エレベーターの中での沈黙が重苦しい。 エレベーターを降りて自分の荷物と私の荷物を持って前を歩く高橋さんの後ろ姿を見ながら、 ふと後ろを振り返るとエレベーターは今降りた15階に停まったままだった。 もし、 このまま静かに立ち去って急いでエレベーターに乗ったら……。
「また変な気を起こすなよ。 何度もタクシーの運転手に謝るのは、 労力が要る」
うわっ。
う、 後ろにも目があるの? 高橋さん。
急に立ち止まった高橋さんが、 前を向いたままそう言うとまた歩き始めた。
もう心臓の鼓動が大き過ぎて、 体内で持ち堪えられなくて口から飛び出てきそうで思わず胸に手を当てた。 そうこうしているうちに、 部屋の前に着いてしまった。
高橋さんがカードキーを差し込んで、 先に部屋の中へ入れてくれた。
想像通りのダブルベッド。 それも、 キングサイズではなく普通のダブルサイズ。 こんなところで一晩高橋さんと過ごすなんて、 耐えられるだろうか。 
どんな会話をすればいいの? 
どんな態度で接すればいいの? 
高橋さんは、 あくまで私のことは部下としか見てくれていない。 だとしたら、 私も高橋さんのことはあくまで上司として、 これから明日の朝まで接しないといけないんだ。
出来るだろうか? 私に、 それが出来る?