新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

今、 此処であの頃のことを話したところで、 高橋さんは良い気持ちはしないかもしれないもの。 そう思ったら、 言うのは憚られた。
「どおりで、 さっき暖かいと思っていたんだ」
「暖かい?」
高橋さんは、 そんな私の苦し紛れの取り繕う姿にも我関せずといった感じで、 違うことを言っている。
高橋さん。 酔っているのかな?
何か、 面白い事言っているし……。
「東京は、 雪が降ると寒いって感覚だろ? でもこっちは雪が降った方が暖かく感じられると、 前に来た時に教わったんだ」
「そうなんですか。 知らなかったです」
今夜、 接待を受けたところはホテルから結構近い所だったので、 そのまま高橋さんと歩いて帰る事にした。
こんな近い距離をタクシーに乗ることもないもの。 そして、 雪の降る道を高橋さんと一緒に歩ける事が嬉しくて1人はしゃぎながらホテルへと向かった。 でもこの時、 何故か高橋さんは空を見上げては何だかとても難しい顔をしていた。
高橋さん。 寒いのが苦手なのかな?
そんな脳天気な事を考えながらホテルまで辿り着き、 もうだいぶ遅かったし仕事も無事終わったので明日は観光するにしても疲れているので取り敢えず9時にロビーで待ち合わせをして、 チェックアウトぎりぎりまでホテルに居る事にした。
しかし、 翌朝目覚めると観光どころか大変な事になってしまっていた。
ロビーに荷物を持って向かうと、 高橋さんはもう来て待っていた。
「おはようございます」
「おはよう。 取り敢えず朝食食べて、 直ぐに空港に行こう」
「空港……ですか?」
チケットチェンジして早めに帰るのかな? などと想像していると、 高橋さんは私の後ろを指差した。
「見てみろ」
「えっ?」
高橋さんに言われるまま振り返ると、 ロビーのガラス越しに見える外の景色は一面真っ白な銀世界で……否、 銀世界というより白一色であとは何も見えないぐらいの大雪だった。