「俺と仁は、大学1年の夏前ぐらいからモデルのバイトをしていたんだ」
モデルって……。
あの……モデル?
高橋さんが、モデルのバイトをしていたなんて初耳かもしれない。 仁さんも……そうだったんだ。
「そこでミサと知り合って、俺のひと目惚れだった」
ああ……なんでだろう。 昔のことなのに、今とラップしてしまって胸が苦しい。
「大丈夫か?」
エッ……。
高橋さんに急に優しく話し掛けられて、余裕がなくただ頷くだけだった。
「それで、俺が猛烈にアプローチして……ミサとは歳も離れていたけど直ぐに意気投合して付き合うようになったんだ。 俺は実家暮らしいだったが、そのうちミサと一緒に居る時間の方が多くなって家に帰らないことも増えて、ミサのマンションで一緒に暮らすようになっていた」
高橋さんは、ミサさんと同棲していた……の?
「だけど、俺はまだ学生でバイトのモデルだったし、ミサは専属モデルだったから稼ぎも全然違う。 俺も男だからそういうのが嫌で、モデル以外に夜はクラブでピアノを弾いていたんだ。 勿論、その方が金になったから」
高橋さんは、本当にミサさんのことが好きだったんだ。
「それから、そんな生活が続くようになって……俺はミサと翌年の俺の誕生日に結婚式を挙げることにしたんだ」
嘘。
結婚式って……それじゃ、さっき言っていた結婚式をドタキャンされたっていうのは、もしかして……それって、まさか。
「結婚資金を貯めるために夜のバイトも時間を延ばして、終わるのが朝方4時近くの生活がずっと続いてた。 でも、不思議と苦にならなかった。 それでも俺は、親からも祝福されて結婚したいと思っていたから、お互いの親を説得に行ったんだ。 そして俺の親は、大学はちゃんと出ることを条件に。 ミサの親は、1ヵ月に1回は実家に帰ってくることを条件に結婚を許して貰えた」
やっぱり高橋さんは、筋道をちゃんと通す人なんだ。 それは、昔から変わらないんだね。
「それから段々現実味を帯びてきて、招待状や式場を決めて金ももっと貯めないといけないことも分かったから、俺はモデルと夜の仕事の他に昼間寝ていた時間を単発のバイトを入れたり夕方家庭教師をしたりして、殆ど家に居る時間がなくなっていったんだ。 家に帰ってくれば疲れているから寝るだけの生活がずっと続いて、それが結果的に……」
そこまで言うと、高橋さんは黙ってしまった。