新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

せっかくチャンスをくれた中原さんには申し訳ないけれど、今日は行かなかった方が良かった。 そうすれば、ミサさんにも会わずに済んだのかもしれない。 でも、それも何時かは訪れていたはずだから。 偶々、それが今日だった。
哀しい胸を締め付けられるような出来事は、頻繁に起きるより一気に来てくれた方がダメージは大きいけれどその方が良いのかもしれない。
お風呂から上がって、いつもの癖で右腕に時計をはめようとして躊躇った。
もう……同じ時間を刻めないの?
同じ時間を、一緒に過ごしては行かれないの?
『 時計は、適当に処分してくれ 』
あの言葉は、本心だった?
高橋さんは、今でもこの時計をはめていますか? それとも、もう何処かにしまってしまった? 処分してしまった?
それでもはめると安心出来るから結局はまたはめてしまい、仰向けに寝ながらジッと時計を見たまま時が刻まれるのを静かに見ていると、涙が頬を伝って何本もの筋となって流れて枕に涙の滲みが大きく出来ていった。
午前0時ジャスト。 悪夢の昨日が終わった。
そして、今日はどんな日になるだろう?
もう今日がどうなろうと、どうでもよかった。
高橋さんは、もう病院だから寝てるのかな?
やっぱり、高橋さんのことを考えてしまう。
まだ好きなのに……こんなに好きだったのに……何で?
どうして?
その疑問を交互に時計に問い掛けながら、朝を迎えた。
やっぱり、酷い顔だ。
鏡を見ると、まるで岩石みたいに腫れている目に溜息が出た。