新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

どうして、金曜日に言ってくれなかったんだろう?
もう思考能力が落ちてしまっているのか、色々なことが起こり過ぎていて整理が出来ない。 何をどう考えてもおかしいことばかりで、高橋さんがそこまでして私に隠したいことって、いったい……。
「それで……矢島さん?」
「えっ? あっ。 すみません」
中原さんが何かを言い掛けていたらしく、その声で我に返った。
「実は、高橋さんから今日書類を届けて欲しいって言われてるんだけど……」
その言葉に事務所の床を見ながら聞いていたが、中原さんを睨みつけてしまった。
「俺、ちょっと用事があるから矢島さんが代わりの届けてくれる?」
「中原さん……」
用事があるなんて、恐らく嘘なんだと思う。
私のことを思って、言ってくれているんだろうということは、直ぐに分かった。
「でも、それでは中原さんが1人に……」
「だから、少し早めに会社を出て不帰でいいから。 まだそんなに忙しくないし、俺1人で大丈夫。 此処に届ける場所、書いてあるから」
中原さんは、書類の入った茶封筒と一緒にメモ紙を私にくれた。
あっ……。
そのメモ紙に書いてあった場所。 そこは、明良さんの病院だった。
「俺も詳しい内容までは、分からないから」
中原さん。
中原さんはそう言うと、高橋さんが作ってくれていた資料に目を通していた。
高橋さんが、今週いっぱいお休みするなんて想像もしていなかった。 中原さんと私に資料まで作っていたことも、勿論知らない。 金曜日。 一方的に別れを告げられて何も出来ずに居た頃、高橋さんは入院の準備をしていたの? それとも、もう週末から入院していたの? 何も話してくれない高橋さんは、いったい何を隠しているんだろう。 隠すというより、私に知られたくない何かがあるのかもしれない。 その何かのために、別れを告げられたの? 何もかも、分からないことばかり。
でも、今日会える。 中原さんの代わりに書類を届けに行くことで、少しはこのモヤモヤした理解出来ない高橋さんの行動が分かるかもしれない。 でも、何も話してくれなかったら……そう思うと、既に緊張してきてしまった。