新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

Citrus Gingerのこと、覚えていてくれたのかな?
先ほどまでの出来事は、悪夢だったんだ。 聞き間違いだったんだという、ほんの僅かな望みに賭けていた希望は、やはり高橋さんの言葉によって打ち砕かれた。
「家の鍵、何処にある?」
「えっ?」
「本当に家の鍵、部屋にあるよな?」
「高橋さん……あ、あります。 玄関のドアの横に……」
すると、高橋さんは確かめに行った。
もしかして、疑われているの? 玄関の鍵を、本当は持って出ていたとでも……。
「誰も部屋に入った感じもないし、鍵も玄関にあるから心配はないだろう」
エッ……。
「俺が、お前を疑ったとでも思ったのか? そんなに、眉間に皺を寄せて」
うっ。
ばれてる。
「誰かが入ってきて鍵を持って行かれたら、今は大丈夫でも……後日、また来られたりしたら怖いだろう? お前の居ない留守中に部屋に入ったり、あらゆることが出来る。 鍵を持って行かれたら」
そんな……怖い。
「ごめんなさい。 そんなこと、考えていませんでした」
「取り敢えず、何もなくて良かった。 痛みが治まらなかったら、明日にでも病院に行った方がいい」
それだけ告げると、高橋さんはまた玄関の方へと向かった。
「高橋さん。 待って下さい」
まだズキズキする膝を引きずりながら、必死に玄関まで辿りついた。
今の正直な気持ちを伝えたくて、勇気を出して言葉を発しようとしたが遅かった。
「俺は、もうお前を起こしてやることは出来ない。 だから、1人で起きるんだぞ。 それで、早くお前を支えてくれる奴を見つけろ。 お前なら、直ぐに見つかる」
「そんな……」
「それじゃ」
ポンポンと私の頭を2度軽く左手で叩いて黙って微笑むと、高橋さんは玄関から出て行ってしまった。