新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

すると、ちょうど帰宅してきたであろう。 サラリーマン風のスーツを着た男性がオートロックを開けようとして、高橋さんと抱っこされている私を見て驚いていた。
「大丈夫ですか?」
ハンカチを当てている膝に目がいったみたいで、問い掛けられた。
「申しわけありません。 一緒に入れて頂いても、よろしいでしょうか?」
「も、勿論です。僕、ポストを見てから行きますから。 どうぞ、先にエレベーターで行かれて下さい。 お大事に」
「申しわけありません。 ありがとうございます」
そう高橋さんが男性に尋ねると、心配してくれた上に優しい言葉を掛けてくれた。
高橋さんが挨拶をしてくれたので、頭だけだったけれどお辞儀をした。
エレベーターを降りて部屋の前まできて、高橋さんがドアノブを握ると、一瞬、間を置いてから玄関のドアを開けた。
そして、ベッドに私を下ろすと救急箱の場所を確かめて取ってきてくれた。
ああ……こういう優しさが好きだったんだ。
嫌だ。 何、考えているんだろう。 まだ別れるって、決まっていないのに不吉なことを考えてしまった。
「滲みるぅ。 痛い!」
「我慢しろ」
そんなごく普通の会話をしながら、まるで先ほどのことなんてなかったように高橋さんは接してくれて、消毒とガーゼを患部にあててテープを貼ってくれた。
このままずっと、このまま今まで通りに……高橋さん。
高橋さんも、そう思ってくれている? そう感じてくれている?
このままずっと一緒にって、思ってくれていますか?
高橋さんの姿を無意識に追っていると、高橋さんがドアのある所をすべて開けていた。
「どうしたんですか?」
「いや、変な奴が潜んでないかと思って……な」
【ニューヨークのお土産 Citrus Ginger】 と、小さく書いて小瓶に貼り付けてある文字をジッと見つめながら高橋さんがそう言った。
ああ……そうか。 さっき、鍵を開けっ放しで出ちゃったからだ。
どんな時でも、高橋さんは冷静沈着なんだ。 そういうところが、好きなんだけど……。