新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

それは、検査結果と関係し……てる? もしかして……まさか……。
慌てて立ち上がり、咄嗟に1番最初に足に当たったサンダルを履いて外に飛び出した。
まさか……まさか、高橋さん。
検査結果が、本当は良くなかったんじゃ……それで別れを言いに来たの?
通路から下を覗いた。
すると、まだ高橋さんの車は駐まっていた。
車、まだある!
留めなきゃ。 今、留めなきゃ……きっと2度と高橋さんはもう戻って来ない。
今、追わなければきっと高橋さんは私の横をスッと、何事もなかったように通り過ぎていってしまう。
『 お前を失いたくなかったから 』
私も、高橋さんを失いたくない。
車がまだ駐まっていることに望みをかけ、通路から下を見ながらもう1度引き留めようとして走りかけた。
あっ……。
運転席に高橋さんの姿はなく、まだ車に乗っていない。 高橋さんの後ろ姿を確認することが出来た。 でも、その姿を見て早く下に降りていって引き留めなければいけないのに、金縛りにあったようにその場から動けなくなってしまった。
高橋さんは助手席のドアの横に立ち、車の天井に左肘を突きながら寄り掛かっている。 それだけなら、直ぐにでも走り出していただろう。 高橋さんは、その右腕を空に向かって翳している。 その翳した腕の右手首には、お揃いの時計が……まるで天を仰ぐように、時計を見ていた高橋さんの横顔がLED街路灯にくっきりと照らし出され、その横顔に反射して頬を光るものが流れているのが見えてしまった。
高橋さんが……泣いている。
何故?
どうして、泣いているの?
そして、高橋さんが左手で時計の上から右手首を掴んでいた。
思わず、自分の右手首を左手で掴んだ。