新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

こちらを振り返らずに、高橋さんは背中を向けたまま言葉を発した。
「時計は、適当に処分してくれ」
「えっ?」
言い終えると同時に、高橋さんがドアを開けて出ていってしまった。
今、何て……今……何て言ったの? 
高橋さん。
閉まったドアを見つめながら、玄関に座り込んでしまった。
2人で一緒に時を刻んでいこうと、言ってくれたのに……この時計を 『 時計は、適当に処分してくれ 』 だなんて。 そんなこと、どうして言えるの?
本当に私……高橋さんと別れるの?
それとも、もう別れたの?
こんな呆気なく終わってしまって、いいの?
別れる時は、あっさりの方がいいとよくまゆみが言っていたけど、こんなものなの?
そんなの……そんなのって……。
思えば、今週の高橋さんは本当におかしかった。
おかしいというよりも、明良さんから電話があって、その時ずっと一緒に居た私には何も告げず、月曜日の朝は病院立ち寄りで出社した。 それは、検査結果を聞きに行ったから。 だけど、その結果も私から尋ねなければ教えてもらえなかったのかもしれない。
ハッ!
もしかしたら、あのエレベーターの中で早く検査結果が知りたくて焦って聞いてしまったことが、デリカシーに欠けていたのかもしれない。 本当は、言いたくなかったのかな? いくら私でも検査結果は個人情報だし、それを無理矢理聞き出しても私にはどうすることも出来ないわけで……医者でもない私がしゃしゃり出て、どうなるものでもない。 まして、仕事中に聞いてしまった。
でも……何故、急に?
何で、急に別れようなんて言い出したの?