新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

「何、ボーッとしているんだ? 会議の資料、出来てる?」
ハッ!
まずい。 すっかり忘れていた。
金曜日に、言われていたんだ。 月曜日の朝一で、資料を作っておいて欲しいって。 高橋さんから預かった下書きも、まだ机の引き出しに入れたままだ。
「す、すみません! 申しわけありません。 まだ、出来ていないんです。 今、直ぐに……」
エッ……。
一瞬だけ、高橋さんが鋭い瞳で睨んだ気がした。
「急いでくれ。11時からの会議で使うから」
「はい。 申しわけありません」
返事をするかしないかのうちに、高橋さんは何処かに電話を掛け始めていた。
「会計の高橋ですが、今お席にいらっしゃいますか?……そうですか。 それでは、またその頃にお電話致します。 はい……」
高橋さんの声を聞きながら、反省と共にとにかく机の上の書類をザッと脇に寄せて、直ぐに資料作りに取り掛かった。
11時からの会議にギリギリ資料も間に合い、高橋さんと一緒に会議に出席するようにと言われて、会議室に向かうためにエレベーターを待っていると、直ぐにエレベーターのドアが開いたので乗ると、偶々誰も乗って居なかった。
これを絶好のチャンスというのだろうか。 今なら、病院に何をしに言ったのか聞けるかな。 もし、検査結果を聞きにいったとしたならば、結果はどうだったのか知りたくて、思い切って高橋さんに話し掛けた。
「病院立ち寄りって、明良さんの所に行かれたんですよね? 検査結果とかだったんですか?」
高橋さんは、驚いたような顔をしてこちらを見た。
「ああ。 そうだ」
やっぱり……そうだったんだ。
「あの……ど、どうだったんですか? 結果は、大丈夫だったんですか?」
「何ともないってさ」
はぁ……。
高橋さんは、あっさり応えてくれた。
肩の力が抜けていくようだ。 何だったんだろう。 朝から悶々としていた、あの1時間は。
でも、何だかまだ信じられない。
「それ、本当なんですか? 嘘じゃないですよね? 本当のことを言って下さい」
高橋さんを見上げたまま、膝がガクガクと震えている。
「ああ。 本当だ」
「本当ですか? 良かった!」
沈んでいた声が、1オクターブぐらい高くなった気がする。
「仕事中だ。 会社でそんな話はもうするな」
「す、すみません……」