新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

「大丈夫か?」
「は、はい」
そんなに近くで言わないで。 いきなり耳元で言われて、ドキドキしちゃう。
あっ。 そう言えば、NEW YORKのホテルのベランダで、夕陽を見ながら高橋さんが寒いからって、ラナイベンチで今みたいに抱きしめていてくれた。
「夕陽を……見てましたね」
「ああ。 懐かしいな」
今でも、あの時のことが鮮明に思い出され、恥ずかしくて前を向いたまま頷いた。
でも……何だろう?
高橋さんは、何で今そんなことを?
ソファーテーブルにビールの缶を置くと、高橋さんが黙って私を後ろから静かに抱きしめた。
そんな高橋さんの行動に、前を向いたままなので表情を窺い知ることは出来なかったが、黙ってそれに従っていた。
「ミサとは、俺が18の時に知り合ったんだ」
「えっ……」
唐突な高橋さんの言葉に後ろを振り向こうとしたが、すっぽり抱きしめられていたのでそれは敵わなかった。
「当時、俺はまだ大学1年で、それで……」
その時、高橋さんの携帯が鳴った。
ドキッとしてしまう。
「ごめん。 ちょっと、いい?」
「はい」
高橋さんは私を横に座らせると、ソファーから立ち上がった。
またミサさんからの電話じゃないかと一瞬思って、ドキッとしてしまった。
「はい……何だよ、お前……来るとか言ってて、どうしたんだよ」
良かった。
どうも電話の主は、明良さんのようだった。
「ああ……」
でも、何故か途中から高橋さんの声のトーンが、僅かながら低くなった気がした。
「そうか……分かった……そうだな……いいよ、月曜日に……それじゃ……ああ……」
月曜日に、明良さんに会うのかな?
「お前も風呂にもう1回入って、温まるだけ温まって来い」
「えっ?」
「もうこんな時間だから、寝るぞ」
「あっ。 はい……」
さっき、家でシャワーを浴びたばかりだったが、高橋さんに言われてもう1回温まるだけ温まろうとバスルームへと向かい、寒かったので湯船に飛び込んだ。