新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

ローソクは、流石に29本は無理なので大きめのローソクを2本と小さめのローソクを9本つけてもらう。
ローソクの火を吹き消すシーンを想像すると思わずにやけてしまって、店員さんに変な目で見られてしまった。
週末のせいか道路も混んでいて、高橋さんのマンションに着いたのは19時近かったが、それでも翌日も休みだから帰らなくていいのと、高橋さんも送ってかなくていいとう開放感からか、ゆっくり支度をして夕食の食卓を囲んだ。
こんな日が来るとは思ってなかった去年、明良さんの別荘でお鍋を囲みながらみんなで騒いでいた。 あの頃が昨日のようで、それでいて遠い昔のような気がした。
まして、午前中にあんなことがあったから、今この場所で高橋さんと一緒にご飯を食べているなんて、想像も出来なかった。
「どうした? 箸が、止まってる」
「えっ? あっ……いえ、何でもないです」
「そうかぁ?」
うっ。
テーブルを挟んで身を乗り出しながら顔を覗き込まれたので、度アップで迫ってきた高橋さんの顔があまりにも綺麗な彫りの深い顔立ちだった故に、ついドキドキしてしまう。
「ケ、ケーキ! 後で、ケーキ食べましょうね。 ケーキ」
到底、通じるはずもないことは承知の上で話題を変えて誤魔化したが、高橋さんは何も聞かずに何故かスルーしてくれた。
時間をかけてゆっくり食べていると、結構お腹に入ってしまうもので、今日はいつも以上に食べてしまい、だいぶ許容範囲を超えている。 だが、お腹がいっぱいでもケーキは別腹だから大丈夫。
コーヒーメーカーでコーヒーを落としながら、お楽しみのケーキの準備を進めた。
「ジャーン!」
箱の蓋を取って中を見せた瞬間、高橋さんが左手で両こめかみを挟んでガックリ項垂れた。
「お前……俺、幾つだと思ってんだよ」
「えっ? 29歳ですよね? さっき、高橋さんだって胸張って言ってたじゃないですか。あっ。 それとも、数えで30の方が良かったですか?」