カーエアコンの温風が勢いよくシャワーを浴びたばかりの熱い体にかかって、焦る気持ちもあってか暑いぐらいだ。
きっと風邪をひかないようにと、高橋さんがいつもより高めの温度に設定してくれているんだ。
ああ、まただ。
また自分のいいように、解釈してしまっている。
好きになってしまった以上、そう簡単には割り切れないし真相を聞くまでは闇雲に疑ってもそれは高橋さんに失礼だから。 そう言いつつも、何処かで高橋さんを信じている。 お人好しと言われても、仕方がない。
雨音が車の天井に打ちつけ、時折、風で街路樹の枝から一斉に雨粒が落ちて来てバリバリという音にドキッとする。
雨音と共に、フロントガラスを左右に行き来するワイパーの規則正しい音だけがしている。黙ったまま家の鍵をギュッと握っていると、高橋さんが煙草に火を点けようと左手でライターを着火したが、何故か火を点ける直前で躊躇い、口に咥えた煙草を右手で素早く掴んで箱に戻した。
「さっきは、悪かった」
うっ。
恐れていたそのひと言で、高橋さんとミサさんが会話をしていた場面がフラッシュバックしてしまった。
「だが、言い訳はしない」
ああ……高橋さん。
「どんな言い訳をしたところで、さっきミサに会っていたのは事実だから」
フロントガラスのワイパーが、雨の勢いに追いつかないのか前方がよく見えない。
そうじゃない。
雨の勢いが増したんじゃなくて、泣いていたんだ。 それを気づかせてくれたのは、高橋さんの右手が涙を拭ってくれたから。
高橋さんの性格からいって絶対逃げないし、言い訳もしない人なことは分かっている。 でも、ミサさんのことはもう過去のことだって言ったあの言葉に、今も偽りはないのか。 それが……その確証が欲しい。
その言葉が聞ければ、ミサさんに会っていたとしても、それは何か用事があったから会っていただけだと思えるから。 別れた昔の女性に、会ってはいけないという決まりもないし、会わないでとも言えない。
でも、今の私にはその確証が重要で……。
「高橋さん」
その声に、高橋さんは無言のまま私を見たが、その目は真っ直ぐで逸らすこともなく落ち着いている。
「今でも……今も、高橋さんは私だけを見て、同じ時間を刻んでくれていますか?」
助手席に座っているのに、膝がガクガク震えている。