新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

不意を突かれて、ドキッとした。
「い、いえ、多分……家に居ます」
「そう。 じゃあ、何処か行くか? それとも、来週は月末だから家でゆっくりしてた方がいいか」
うわぁ。
何て、応えたらいいんだろう?
「た、高橋さんは、この週末はお出かけしないんですか?」
それとなく探りを入れられたので、我ながらナイスな質問だと思った。
「ん? 殆ど、家に居るかな」
やったぁ!
これで、明日は大丈夫かも。
留守ってことは、ないよね。
「そうなんですか」
そうこうしているうちに、私のマンションの前に着いてしまった。
高橋さんが、いつものように助手席のドアを開けてくれる。
「送って下さって、ありがとうございました」
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
高橋さんの車を見送りながら、心の中で 「 また明日ね。 高橋さん 」 と、呟いていた。

朝から髪型が決まらずに何度もやり直して、やっと家を出たのは10時を過ぎてしまっていた。
高橋さんのマンションまで、電車だと1時間弱かかる。
駅から少し遠いのは仕方がないのだが、徒歩で今日は高橋さんのマンションまで向かう。
お天気もまずまずだったので、2月といっても昼間はお日様が照っているから暖かい。
高橋さんをビックリさせようと思うと、だんだんマンションに近づくにつれて緊張してきてしまった。
ちょうどエントランスに着くと、ラッキーなことにマンションの住民の方がオートロックを解除して入るところだったので、部屋番号を告げて一緒に入れてもらった。
これで玄関前のインターホンを押せば、もっとビックリするかもしれない。
想像しただけで、顔がにやけてしまいそうだ。
エレベーターを降りて、高橋さんの部屋に向かう途中、自然と歩き方が抜き足差し足になってしまっているのは何故だろう。
凄く緊張してきて、手が冷たくなっているのが分かる。
そして、もうその角を曲がると直ぐに高橋さんの部屋のピロティというところで、ふと高橋さんの部屋の前に人影が見えて、高橋さんと誰かが話している声が聞こえてきて、咄嗟に曲がろうとしていた足を止めて、角の壁に隠れた。
「だから、もう来ないで欲しい」
「でも、貴博」
エッ……。
誰?