新そよ風に乗って ⑦ 〜Saudade〜

「そうだな。 また、行けばいいだろ?」
高橋さんは唇を薄くキュッと結び、微笑みながら左手で私の髪をクシャッと撫でてくれたので、黙って頷いた。
高橋さんが、助手席のドアを開けてくれる。
「また、明日な」
「はい。 誘って下さって、ありがとうございました。 とっても楽しかったです。 気を付けて、帰って下さいね」
「ああ。 それじゃ」
高橋さんの車が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。
そう言えば……電話は、大丈夫だったのかな?
ふと、頭をそんな思いが過ぎった。
ああ!
急に、思い出してしまった。
20日は高橋さんのお誕生日だから、早くプレゼントを買いに行かなきゃ。もう、2週間を切ってしまった。

優柔不断な性格なので、月曜日以降、ずっと会社の帰りにデパートに寄ったりしてプレゼントを何にするか思案していたが、未だに決まらない。
ネクタイは、好みがあるだろうし……そうかと言って、他のものも何でも持ってるし……悩むなぁ。 今日も決まらず、帰ろうと思って出口に向かっていた。
もう18日だし、明日1日しかなくなってしまって、凄く焦っている。
でも、明日は20日の前倒しで忙しいから、そうなるともうお誕生日の当日しかない。
そんなことを思いながらデパートを出ようとした時、ガラスケースの中に入っていた1個のキーケースが目に止まった。
高橋さん。
キーケースは持っているけれど、このブリティッシュ・グリーンのカラーといい、凄く高橋さんらしくて似合いそうな気がする。
キーケースだったら消耗品だけど、幾つあっても困らないから予備に持っていてもらってもいいし……。
そう思ったら、迷わず会計をしてもらっていた。
プレゼント用に包装してもらって、後は20日に渡しに行くだけ。
当日は、黙ってマンションに行くつもりでいる。 もし留守だったとしても、この大きさならポストに入るので、一応メッセージも書いて持って行こうと心に決めた。
案の定、20日の前倒しの金曜日は、泣きたくなるほど忙しかった。
でも、明日プレゼントを渡せるという気持ちの方が勝っていて、それほど辛くなかった。そして、昨日のうちにプレゼントを決められて本当に良かったと思った。 当日の明日決めるなんて、絶対無理だったもの。
それでもやはりいつもよりは遅くなったので、中原さんもデートはキャンセルになり、3人で食事をして帰ることになった。
帰り道、中原さんが先に車を降りた後、高橋さんと2人になれたので嬉しかったが、明日のことがばれないように細心の注意を払っていたので、自然と無口になってしまっていた。
「今日は忙しかったから、疲れただろう?」
「あっ、いえ……大丈夫です。 明日、お休みですし……」
「何処か、行くのか?」