ドン!
「それで?」
「そ、そんなに、身を乗り出して来ないでよぉ」
テーブルを挟んでいるとはいえ、勢いよくテーブルに肘を突いて身を乗り出してきたまゆみの威勢の良さに、引き気味に椅子の背もたれに逃げた。
「だって、気になるじゃない。 ハイブリッジが、その後どうしたのかさぁ……。 そこら辺のお決まりのくだらないテレビドラマを見ているより、よっぽどスリルがあって楽しいじゃない」
「もう! まゆみったら、他人事だと思って」
そうなんだ。
まゆみが1番心配してくれていて、そして1番私のことを考えてくれていたから、真っ先に報告したかった。
出張から帰って来て代休を取り、昨日から出社していたが、初日はバタバタしていて報告が今日になってしまった。
「それで、今している時計がそうなわけ?」
黙って頷くと、まゆみが私の右手首を引っ張った。
「なんじゃ、この見るからに高そうな時計は」
「うん……本当に高いの……」
金額を知っているだけに、未だに気が引けてしまっているのも事実。
「うん……本当に高いの……って、あんた、それを分かっていて平気で受け取ったの?」
「そんな、平気なわけない。 平気なわけ……ないじゃない」
1度は、断った。 
でも、高橋さんのこの時計に対する想いを聞いたら、そんな簡単に断れなかった。
「まあ、ハイブリッジ自身、それで気が済んだんだったら受け取って良かったんじゃない? そんな理由で陽子にくれたんだったら、かえって安いぐらいだったのかもよ?」
まゆみは意地悪そう言うと、一気にコーヒーを飲み干した。
「安いぐらいだったって、まゆみ……」
「冗談、冗談。 女だったら、そんなこと言われたら受け取らないわけにはいかないもんね。 私なら逆に嬉しくて、もし返せと言われても返さないよ。 こんな高い時計、そう易々とは手に入らないからねぇ……。 それに、アヤツは高給取りだからいいんだって。陽子! あんたが負い目を感じることなんて、何にもないんだからね」
「まゆみ……」