底には1人の少女が立っていた。周りには地面から生えた木々も、人が建てた建物もなく、通行人もいない。太陽も見当たらない。
それなのに空は青く、雲も漂っている。

そんな何もない水面に白いワンピースを着た、黒くて長い髪の毛を下ろしている少女が、当たり前に、息を吸って吐くような、
そんな当たり前の出来事のように大きな水溜まりの上に立っていた。

麦わら帽子は被っていなかった。
いや、被っていようが被っていまいがどちらでも良いのだけれど。

「ねぇ、何で君はここに居るの?

ありきたりな質問。知人に言われたら傷つきそうな事を言い放った。
僕は別に傷つかなかったけれど。

ぺちゃぺちゃと音を立てながら一歩、また一歩と少女は僕の近くへ向かってくる。
気がつけば、キスが出来てしまいそうな距離まで少女は近づいてきた。

「君も待ってるの?

何の事だ?
首を左斜め20度ほど傾げ、それだけ言うと少女はまたペチャペチャと水の上を歩いて元いた場所に戻ると直ぐに、遠くを見つめ始めてしまった。

僕も後を追い虚空を見つめている少女の隣に座ってみる。

「風を待ってるの

「風?

そう言ってまた虚空を見る。
なんなんだよ。